「シッコ」−民営化信仰に対する警告

 マイケル・ムーア監督の「シッコ」をみて、日本に公的な健康保険があって本当に良かったと思った。小泉元首相が郵政民営化ではなく、健康保険民営化をしていたら、日本人もこの映画のように過酷な状況に陥っていただろう。テレビで外資系保険会社が大量にCMを流し、厚労省混合診療解禁を検討していることを考えれば、健康保険民営化も十分ありえる話である。早くも産科医療は崩壊寸前なので、これを口実に医療の民営化を一気に進めるというのも一つのシナリオとしてありえるだろう。

 アメリカの悲惨な医療事情と比較する形で、カナダ、イギリス、フランス、キューバの現状が紹介される。キューバ共産国なので比較するには少し無理があるが、隣国のカナダで国民皆保険が機能していて、アメリカでは無理というのは理屈が通らない。アメリカの国民皆保険反対派は、皆保険は社会主義的だから良くないという。それならば、アメリカ以外の先進国はすべて社会主義国家ということになってしまう。まったく理屈が通っていないのだが、そんな屁理屈が通ってしまうのがアメリカらしいところである。

 「シッコ」はこれまでのムーア監督の作品と比べると、価値中立的で説得力がある。医療は政治に左右されてはならない。資本主義社会であるか共産主義社会であるかを問わず、保守政権であるかリベラル政権であるかを問わず、人は健康に暮らす権利があり、政府は医療に力を入れるべきであって、政治を利用して人の命を金儲けの道具にすべきではない。そのように考えれば、この映画は政治的な映画ではないといえる。

 病院が入院費を払えない患者を道に捨てるシーンなど、涙が出てくるシーンもあり、これまでのムーア作品とは一線を画している。

 近年の日本人は、民営化すれば何でもうまくいくという民営化信仰が篤いので、「シッコ」は日本人に対する警告の映画でもある。

シッコ公式サイト

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