憲法9条を救った年金問題

 7月29日に行われた参院選自民党が37議席で、与党が過半数割れという結果になった。過去最低だった1989年の36議席を1議席上回ったからというわけでもないようだが、安倍首相は続投を宣言し、これに対して世論の賛否はほぼ半数に割れている状況である。

 今回、安倍首相は憲法改正を争点にするつもりだったようだが、民主党が追求したこともあって、年金問題が争点となった。それによって、憲法改正を基準にして投票した人は少なかった。

 しかし、憲法改正が争点になっていなかったとはいえ、安倍首相がその気になっている以上、今回の参院選自民党が勝利していれば、憲法改正国民投票が実現していただろう。

 今回、民主党が勝利したことで憲法改正は当分遠のいた。私は以前の記事で、今回の選挙は自由民主主義か極右全体主義かを選択する選挙になると予測したが、年金問題による自民党への逆風が、結果的に憲法9条を救い、日本の自由民主主義を救った形となった。

 共同通信社のアンケートによると、今回当選した民主党参院議員は68・5%が9条改憲に反対している。これに対し、自民党は68・8%が賛成となっていて、民主党は右派議員がいるとはいえ、自民党に比べればリベラルな傾向がみてとれる。

 憲法改正が遠のいたとはいえ、早ければ次の総選挙で改憲勢力が攻勢に出るかもしれない。護憲勢力も一枚岩ではなく、足の引っ張り合いをしている現状がある。共産党など護憲勢力の一部は、民主党を保守的な改憲政党と批判しているようだが、現実には民主党が9条改憲に反対する砦となっている。その一方、民主党護憲勢力も執行部に対して遠慮せず、奮起していかなければならない。ここで長いものに巻かれて改憲に賛成してしまえば、共産党などから戦犯扱いされても文句はいえない。まるで、直前になって戦争支持に転換してしまった、第一次大戦前のドイツ社民党のようになってしまう。

 9条改憲に反対していくには、9条はイデオロギーではなく、日本が歴史的に獲得した平和に対する気持ちの反映であることを訴えて、保守層の支持を獲得する必要があるだろう。

9条改正反対は55% 集団的自衛権行使も否定的(福井新聞 8月1日)

 共同通信社は1日、第21回参院選の公示前に行った全候補者アンケートから当選者を抽出し、政策課題に関する意識を分析した。

 任期中に国民投票法が施行される憲法改正問題では、何らかの改正を支持する「改憲容認派」が64・6%に上ったが、9条改正に限ると55・7%が反対していることが分かった。集団的自衛権行使に関しても48・7%が憲法改正だけでなく、解釈見直しも否定し、「一切認めるべきではない」と答えた。

 自民党参院選公約に2010年の憲法改正発議を掲げた。しかし発議には衆参両院で3分の2以上の賛成が必要で、今回の参院選惨敗により、自民党の目指す9条を含む改正は一層厳しい状況となってきた。

 政党別では、民主党は「9条以外の部分的改正に賛成」「改正反対」が計68・5%。これに対し自民党は「全面改正」「9条含む部分的改正」が計68・8%と対照的な結果となった。

 集団的自衛権の行使については、自民党憲法改正または憲法解釈見直しによる容認派が計78・1%に達したが、公明党は逆に当選者全員が「一切認めるべきではない」と答え、自公の見解の違いが明確になった。