「ランド・オブ・プレンティ」−滑稽なまでに哀れなアメリカ

 ドイツ人の映画監督であるヴィム・ヴェンダースの「ランド・オブ・プレンティ」を見た。本作もヴェンダースが得意とするロードムービーだが、非常に政治的な映画だったので、興味深かった。

 9・11以後、アメリカ批判の映画としては、マイケル・ムーアの「華氏911」がとても話題になった。それに対して、本作は有名な監督の作品にもかかわらず、ほとんど話題にならなかった。

 それもそのはずで、ヴェンダースの映画全般にもいえることだが、この映画が明快さに欠けるからだろう。私は、ブッシュ政権とそれを支持するアメリカ国民に対して、強烈に批判した映画とみたが、見る人によっては、単に対テロ戦争を行うアメリカ人に対して同情した映画と捉えるかもしれず、見る人によって、受け取り方がかなり変わりそうだ。

 9・11以後、盛んにいわれていることだが、地方に住んでいるアメリカ人は無知で保守的な考えの人が多い。主人公はその典型のような人物で、さらにベトナム戦争の帰還兵である。

 この主人公に会いに、外国から姪がやってくる。宣教師の親をもち、アフリカやパレスチナで暮らしていた。パソコンを使いこなし、国際情勢にも明るい彼女は、主人公の伯父と対照的である。

 偏執狂的にテロリストを追い続ける伯父と、それを暖かく見守りながらも、伯父の目を覚ませようとする姪。

 この伯父と姪の関係は水と油のような関係なので、普通は衝突してしまう。そうならないところが、この映画の明快さに欠けるところであり、面白いところでもある。

 姪の伯父に対する暖かい眼差しが印象的で、ヴェンダースの哀れなアメリカ人に対する暖かい眼差しを表しているように思えた。

 この映画では、マスコミの好戦的な報道がよく流れた。さりげなく流れるので、うっかりしていると気にとめないかもしれない。

 アメリカで蔓延している、偏向報道と情報不足という問題である。ニューヨーク・タイムズを読んでいるような人は一握りで、FOXニュースをみるだけのような人が多数をしめる実態がある。

 7月、イスラエルレバノンに攻撃を開始してから、戦争が続いている。CNNによると、アメリカ人は攻め込まれているレバノンよりも攻め込んだイスラエルに同情する人がほとんどという調査結果が出た。この調査結果は、アメリカにおける、偏向報道と情報不足の典型的な例といえよう。

 この問題はアメリカで顕著にみられるといっても、アメリカだけの問題ではない。日本でもNHKニュースは、もはや中立には程遠く、民放以上にバイアスがかかっているし、今に始まったことではないが、読売新聞は保守的といえばバランスがよさそうだが、親米、親イスラエル、反中国の記事ばかりで、相当に偏向している。残念ながら、バランスは相当悪いし、案外情報量も少ない。

 インターネット時代になって、情報は得ようとすればいくらでも得られるが、良質の情報を得るということは案外難しい。

 アメリカで起きていることは対岸の火事ではない。このようなアメリカを模範にした改革を行うことは、格差社会を生みだすことになり、一握りの人のためにしかならない。

 日本は、この映画の姪の役割を演じるべきであって、ただ命令を受けるだけの、伯父(アメリカ)の部下になるべきではない。

ランド・オブ・プレンティ(公式サイト)

ヴィム・ヴェンダースインタビュー(pause)

米国民68%がイスラエルに同情、ヒズボラ6%(CNN)

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