小泉構造改革=新自由主義とは何か

 総選挙は小泉自民党の圧勝で終わり、郵政民営化をはじめとする小泉構造改革がこれからさらに加速しそうだ。小泉構造改革は言うまでもなく新自由主義の一種であり、徹底した民営化は小さな政府となるが、小さな政府とは国が福祉から手を引くことを意味しているので、福祉切り捨てが避けられない。市場原理主義は一部の大企業の利潤を増やすが、多くの国民は所得減となる。市場原理主義労働市場流動性を進めるため、労働者の地位が低下し、労働者の使い捨て化が進む。貧富の格差は拡大し、富めるものと貧しいものが二極化するアメリカのような社会に向かう。  多くの国民が、格差拡大社会を選挙の投票行動によって―騙されたとしても―望んだ以上、それによって辛い思いをしたとしても自業自得であって、首相はせいぜい「痛みに耐えてよく頑張った!」と言ってくれるだけで、何も面倒はみてくれないだろう。年次改革要望書の存在が明らかなように、首相は国民のことを考えているのではなくて、アメリカ合衆国のことを考えているのだから。  これから格差拡大社会を頑張って生き抜いていくために、今回は小泉構造改革がそのモデルにしている新自由主義について再確認しておきたい。新自由主義はイギリスのサッチャー政権が始めたことで知られる。イギリスのロナルド・ドーア新自由主義時代のOECDコンセンサスについて、次のように要約している。 ロナルド・ドーア『働くということ-グローバル化と労働の新しい意味』(中公新書)(p132-135)
1 社会的セーフティーネットは明らかに必要であるが、それは最低賃金法と社会扶助によって提供できる。
2 そのどちらも、仕事を探すインセンティブを低下させるような水準や条件に設定されるべきではない。(以下略)
3 このような就業者給付や「社会扶助から労働所得へ」というプログラムを通じて、やや強制的ともいえる就業インセンティブを与えることは、二つの理由で望ましい。(以下略)
4 セーフティーネット水準の生存競争の場合ばかりではなく、すべてのレベルにおける労働の主たる動機はお金である。(中略)   公的部門は意気地なしの集まる世界である―軍人を別にすれば。しかし、その軍人もブッシュ大統領海兵隊愛国心に満ちた献身を褒め称えると同時に、ラムズフェルド国防長官は、軍事的機能を民間部門にアウトソーシングするのに忙しい。効率の名の下に利潤動機を活用しようとしている。イギリスのトニー・ブレアは同じことを病院について、日本の小泉首相は高速道路について行っている。
5 権力は腐敗するが、市場は規律をもたらす。(中略)   その最たるものは日本の年功制度である。勤続年数プラス「功」というのが建前だが、「功」の評価はしばしば本当の成果があるかないかにかかわらず、努力に大きなウェイトを置く。しかし、消費者は努力に関心を持たない。消費者は成果にだけ関心がある。買った器具が100%仕様通り動くかどうか、である。われわれは皆消費者なのだから、報いられるべきは成果だけである。
 以前、累進課税共産主義のようだと話す人がいてとても驚いたことがあったが、今回の選挙で小泉構造改革が信任されたように、上に引用したようなOECDコンセンサスを受け入れる人が増えてきたということなのだろう。アメリカ流の実力本位社会によって、勝ち組になるのは一握りの人だけで、多くは負け組になるのだが、特にしわ寄せを食う20代と60代以上に自民党支持が多かったというのは皮肉を通り越して、無知のなせるわざであり、日本政治は今や小泉流ポピュリズムに操られた衆愚政治と化してしまったようだ。  次回は、新自由主義が経済学的にどう捉えられているのかをみていきたい。 参考WEB 新自由主義(Wikipedia) 日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書(在日米国大使館)