日勤教育の責任者こそ起訴せよ

 2009年7月8日、JR西日本の社長(現場が急カーブに付け替えられた1996年当時の常務取締役鉄道本部長)が業務上過失致死傷罪で在宅起訴された。起訴された理由は、2005年4月25日の福知山線脱線事故(乗客106人死亡、562人重軽傷)当時、カーブの危険性を認識できたのに、経費の増大を懸念し、ATSを設置しなかったというもの。

 事故から何年たっても捜査が進展しないので、私はてっきり、当局が捜査を断念したのかと思っていた。当時から起訴は難しいといわれていたので、社長一人だけでも起訴したのは一定の成果といえなくもない。

 しかし、気になる点がある。事故の理由は日勤教育にあったことは周知の事実であり、運転士が日勤教育を恐れるあまりパニックになって、事故を起こしたということが通説になっている。その日勤教育を不問にして、ATSのみについて起訴してよいのだろうか。

 兵庫県警が既に書類送検している元運輸部長二人については、懲罰的な日勤教育で運転士に心的圧力をかけたとされるが、日勤教育を事故原因とする証拠がないことを不起訴の理由としている。

 ATSなど今後の事故防止策については、法改正や国土交通省による行政指導で対応できるはずで、裁判では第一義的に事故の原因を問うべきではないか。

 証拠がない負け戦になったとしても、鉄道史上類をみない大事故の原因になった日勤教育について裁判で争うこと、そのことこそに意義があり、それをしなければ犠牲になった遺族も運転士も浮かばれないように思う。あらゆる職種で労働環境が悪化しているこの時代に、裁判の勝ち負けを越えて、検察が裁判で訴えることは意味が大きかったのではないか。

JR福知山線脱線:JR西社長起訴 「会社の責任は」 長女亡くした奥村さん /兵庫(毎日新聞)

JR西日本の脱線事故はこのまま風化してしまうのか(Cityscape Blog)