KY−筑紫哲也氏の手紙

 空気を読め、さもないとお前は時代遅れだぞ、仲間外れだぞ、とおどしている。そうでなくとも「命令型」でよかった日本語を「懇願型」の婉曲話法に変えていくほど心優しい若者たちが、この同調努力にどう耐えられるのだろうか—と私はまたお節介な心配をしています。
 それどころか、この国の歴史のなかで、何を残し、何を捨ててもよいから、これだけはあなたたちが引き継いで欲しくはないと私が思い続けてきたもの、それが「KY」に凝縮している思考なのです。
 言うまでもなく、この国の歴史のなかで最大、最悪の国家的失敗(破滅)は1945年8月15日に決着しました。なんでそんなことになったのかを辿るとやはり「KY」に行き着くのです。その話をもっときちんとできる「手紙」を書かないといけませんね。ではまた。
「青春と読書」10月号(集英社)に連載されていた筑紫哲也氏の「若き友人への手紙」第二回から一部抜粋   周知のように筑紫氏は亡くなったため、手紙の続きは読むことができない。私もKYについては同じようなことを考えていたので、筑紫氏による戦前のKYについての話はとても読みたかった。  私も以前は筑紫氏を生温いと感じたこともあったが、最近は芯の強さを持ちながらもアンテナの広さとその卓越したバランス感覚はほかのジャーナリストにはみられないものであり、尊敬の念を感じていた。  筑紫氏は最後の多事争論で日本はガンにかかっていると話していた。的を得ているとしか思えない鋭い表現だったが、最近明るいニュースもあった。米国でオバマ氏が大統領に当選したことだ。このニュースには、筑紫氏も天国で喜んでいることだろう。