イタリアの政権交代

 4月9日と10日、イタリアで行われた上下両院選挙で、プローディ元首相率いる中道左派連合「連合」が、ベルルスコーニ首相の中道右派連合「自由の家」を小差で破った。 野党陣営の勝利確定=最高裁、最終集計結果を発表−イタリア(ヤフー・時事通信) (1)ベルルスコーニのメディアコントロール  この総選挙では、選挙直前に与党が有利になるように選挙制度を改正したり、選挙後に負けた与党が票の数え直しを要求するなど、ベルルスコーニ首相の横暴さが目立った。ベルルスコーニ首相がコンプライアンス法令遵守)に欠ける点では、ブッシュ大統領国際法無視のイラク戦争、フロリダでの開票疑惑等)や小泉首相憲法違反の靖国参拝)によく似ている。  ベルルスコーニ首相がメディアコントロールを駆使することでは、ブレア首相や小泉首相に似ているが、ベルルスコーニ首相のより徹底している点は、メディア王として、自らテレビ局を所有していることで、所有しているテレビ局メディアセット (Canale 5, Rete 4, Italia 1)では、与党の扱いが野党の扱いの10倍の時間にのぼっているという。 プローディ、メディアセットには出演せず(イタリアに好奇心)  テレビを利用したメディアコントロールは、選挙に負けたとはいえ、今回もある程度有効だったようで、ベルルスコーニ首相は、中道左派連合は旧共産党に操られていて増税しようとしているとテレビで繰り返し訴えることで、選挙戦後半での追い上げに成功した。具体例として、4月3日のベルルスコーニとプローディのテレビ討論で以下のようなやりとりがあった。 2006年イタリア総選挙 4月3日 ベルルスコーニ VS プローディ テレビ討論(第2回目)(やそだ総研)
ベルルスコーニは、プローディはこう言っているが、左派は全然違う考えでいる、共産主義者たちは大規模な所得再配分を計画している、とカットコムニスモカトリック共産主義の混合)が増税を準備しているというイメージを聴衆に植えつけようとしました。プローディは、ややイラつきながら、自分の考えは明確であるとして、単語ごとにゆっくり言葉を分けて先の定義を繰り返しました。「これでいいですか。」これはやや押しつけがましい感じでよい印象を残さなかったと思います。ベルルスコーニは左派はやはり信用できない。中道・左派には100人以上の最左派(旧共産党系)の議員が含まれていると、左派陰謀説をさらに展開しました。
(2)二大連合と二大政党  イタリアでは1994年の総選挙から、日本では1996年の総選挙から、小選挙区比例代表並立制に移行した(イタリアは去年、比例代表制に変えたが、それまでの並立制の要素が残っている)。  中道左派連合の「オリーブの木」で知られているように、イタリアでは多数の政党が2つの連合に分かれて選挙を戦うことによって、政権交代を繰り返すことに成功した。。それに対して日本は、多数の政党が二大政党に収斂することによって政権交代を試みたが、10年たった今でも成功せず、自民党の一党優位政党制が続いている。多数の政党があるイタリアが政権交代していて、二大政党に近い日本が政権交代できないのは皮肉な話だ。  私は、日本は二大政党にこだわりすぎたために、政権交代に失敗したのだと思う。政権交代のために野党が一つの政党にまとまったため、それまでの政策を放棄してしまったことに加え、まとまれなかった社民・共産が独自に戦ったため、イタリアほど徹底した選挙協力体制がとれなかった。  小沢民主党については、これまで以上に自民党との違いがわからなくなった。仮に政権交代したところで、小沢氏の考えが大きく変わらない限り、これまでの小泉政権新自由主義路線が継承されるのではないか。  日本もイタリアを参考にして、二大政党から二大連合に目標を変えて、他の先進国のように、保守・リベラルという政策の違いをはっきりと打ち出すべきだ。