民意を歪めてまで安定政権をつくるのか
9月18日、ドイツで行われた総選挙は、第1党と第2党が3議席差になる大接戦となった。ドイツの選挙制度は小選挙区比例代表併用制で、日本の小選挙区比例代表並立制と名前が似ているが、全く違う制度である。ドイツの併用制は比例代表の得票率でまず各党に議席配分するので、小選挙区中心の日本の並立制とは違い、比例代表中心の制度といえる。
<参考>ドイツの政党
保守。選挙前の野党。メルケルCDU党首。シュトイバーCSU党首。シンボルカラーは黒。
左派。選挙前の与党。シュレーダー首相。ミュンテフェリング党首。シンボルカラーは赤。
・自由民主党(FDP)
中道。自由主義。選挙前の野党。ヴェスターヴェレ党首。シンボルカラーは黄。
・左派党
民主社会党(東ドイツの旧共産党)とSPDの離党組が合流。シンボルカラーは赤。
・緑の党
環境政党。選挙前の与党。フィッシャー外相。ビュトコーファーとベーアの二人党首。シンボルカラーは緑。
<表(枠なし)>2005年総選挙の日独比較(数字は左から相対得票率、議席数、議席率)
・ドイツ
CDU/CSU 35.2% 225 36.7%
SPD 34.3% 222 36.2%
FDP 9.8% 61 9.95%
左派党 8.7% 54 8.81%
緑の党 8.1% 51 8.32%
・日本
自民党 38.18% 296 61.67%
民主党 31.02% 113 23.54%
公明党 13.25% 31 6.46%
共産党 7.25% 9 1.88%
社民党 5.49% 7 1.46%
上の結果(現時点でドイツの全議席数は決まっていない)を見てわかるように、ドイツの併用制では、得票率と議席率の差がほとんどない、民意を正確に反映した選挙制度といえる。
今回、大接戦となったことで、各党の連立交渉が難航しているが、現在取りざたされている連立の組み合わせとして有力なものから並べると次のようになる。
2 CDU/CSUとFDPに緑の党が加わる「ジャマイカ(黒・黄・緑)」
3 SPDと緑の党の現政権にFDPが加わる「信号機(赤・黄・緑)」
ドイツの大連立は、議会内で圧倒的な多数派が形成されるため、危険な連立政権といえるが、1966年のキージンガー連立政権では、政権担当能力が未知数とみられていたSPDが与党入りすることによって、政権担当能力を磨くことができ、SPD主導の連立政権に道を開いたともいわれる。
日本でも、前原氏が民主党代表に就任したことで、自民・民主大連立の可能性がある。ドイツとは違って、日本では憲法改正という重大な政治テーマがあるため、大連立は改憲に道を開く、まさしく危険な連立政権となるだろう。
ドイツの併用制を、安定政権にならずに混乱状態を招く悪い制度という指摘もあるようだが、民意を歪めてつくる安定政権とは一体何なのか。民意を正確に反映させない選挙など、選挙といえるのだろうか。単純小選挙区制のような、極端に民意を歪める制度は、少なくとも日本国憲法に違反しているだろう。
議院内閣制で単純小選挙区制を使用しているのはイギリスとカナダだけであるし、小選挙区制主体の並立制もイタリアだけで、少数派である。ヨーロッパの多くの国は比例代表中心の選挙制度であり、比例代表中心でもドイツの併用制のように、小選挙区制をとりいれて、顔の見える選挙にする方法もある。
比例代表制に対する批判の多くは的はずれで、間違った俗説に過ぎない。
なお、ニュージーランドでは、1996年、小選挙区制からドイツと同じ併用制に変更した。先日行われたニュージーランド総選挙では、ドイツと同じように大接戦となった。ニュージーランドは、90年代に新自由主義的な構造改革の結果、その歪みが明らかとなり、1999年に成立したクラーク労働党政権が、行き過ぎた構造改革に対して国有化等の修正を行った経緯がある。このようにニュージーランドは、選挙制度だけでなく、構造改革に関しても参考になる国なので、ニュージーランドに関しては、また別の機会に取り上げたいのだが、日本語による情報が少ないのが難点である。
<参考>ドイツ(西)の戦後連立内閣
1949 アデナウアー内閣 (CDU/CSU+FDP+ドイツ党)
1957 第3次アデナウアー内閣(CDU/CSU+ドイツ党)
1961 第4次アデナウアー内閣(CDU/CSU+FDP)
1963 エアハルト内閣 (CDU/CSU+FDP)
1966 キージンガー内閣 (CDU/CSU+SPD)(大連立)
1969 ブラント内閣 (SPD+FDP)
1974 シュミット内閣 (SPD+FDP)
1982 コール内閣 (CDU/CSU+FDP)
参考BLOG等