トーキョー シティー ヒエラルキーとアンダーグラウンド

 前回、Bank Bandのアルバム「沿志奏逢」を取り上げたが、この中で私が好きな曲は岡村靖幸の「カルアミルク」と、ヒートウェイヴの「トーキョー シティー ヒエラルキー」である。中島みゆき浜田省吾の曲は良くて当たり前という感じがあったので、このアルバムの掘り出し物はこの2曲だと思った。

 岡村靖幸は10年位前に和製プリンスと呼ばれて、一部の熱烈なファンを集めていた。変態チックな歌を歌う天才的な人というイメージはあったが、私は興味がなかったので全く聴かなかった。長い間、活動を休止していたが、最近久しぶりにアルバムを出した。

 「カルアミルク」は曲名だけは昔から知っていたが、曲を聴くのは今回が初めてで、原曲は知らないが、歌詞・曲はもちろん、小林武史のピアノアレンジも素晴らしい。

「がんばってみるよ 優勝できなかったスポーツマンみたいにちっちゃな根性身につけたい」

 このような何ともいえないキラリと光る歌詞を聴くと、やはり岡村靖幸は天才だったのかと思えてしまう。前回紹介した中島みゆきの「僕たちの将来」は良い歌ではあるが、聴いているとどうしても暗くなってしまうのに対して、この「カルアミルク」は聴くと少しずつではあるが確実に元気が出てくる、そんな歌だ。

 なぜか先日、筑紫哲也のニュースに岡村靖幸がゲストで出て、歌っていた。本の紹介で出たようだが、たまたま番組のプロデューサーに岡村ファンがいただけの話かもしれない。Bank Bandの「カルアミルク」を聴いてしまった私は、この深夜番組を見ずには寝られなかった。放送後、インターネットで10年前より太ったと書いてあるのを多く見たが、ファンでなかった部外者の私は、踊れていたので問題ないのではと思った。

 それにしても、10年以上の歳月を経て、初めてテレビで岡村靖幸を見ることになるとは。

 ヒートウェイヴは名前しか知らなかったのだが、この「トーキョー シティー ヒエラルキー」は歌詞にびっくりした。最近のロックバンドで、ここまで文学的で深い歌詞を書くバンドがあることに驚かされた。

 単調ではあっても、決してきれいごとではすまされない、人々の普段の何気ない生活を歌い、そのことに尊さを感じさせる。そして、東京という街を「そして醜い あまりに醜い 醜いけれど何故か美しい」と歌う。尊さを感じさせるだけの歌詞は、書こうと思っても、なかなか書けるものではない。

 最近、村上春樹の「アンダーグラウンド」を読んだのだが、この歌と見事にだぶった。「アンダーグラウンド」は地下鉄サリン事件のノンフィクションなのだが、大勢の被害者が事件前後にどんな生活をしていたかを描いているのが特徴で、人々の普段の何気ない生活、そのことに尊さを感じさせる。

 私は最初、オウムのやったことが少し理解できるような気がしていたのだが、読んでいくうちにそのような気持ちは徐々に消えていった。

 「アンダーグラウンド」は、なぜ生きることが尊いのか、なぜテロはいけないのかを、圧倒的な説得力でもって教えてくれた。

 「トーキョー シティー ヒエラルキー」は、短い歌であるにもかかわらず、似たようなことを表現できていることがすごい。